Story Vol.19 2024年を振り返り、2025年以降を展望
「どうなる、これからの高級賃貸市場」

2024年を振り返り、2025年以降を展望。「どうなる、これからの高級賃貸市場」

災害もあれば、スポーツや映画での世界的快挙、政治の激変、物価上昇その他国内外でのニュースに事欠かない年だった2024年。高級賃貸市場でもいくつかの注目すべき変化がありました。さらに2025年以降に目をやれば建築費高騰が住宅も含めた不動産・建築事業に大きな影響を及ぼしつつあります。今とこれからの高級賃貸市場についてその道に精通した4人が語ります。

語るのはこの4人(あいうえお順)
阿瀬真由香氏 ケン不動産投資顧問株式会社 課長代理
佐々木重樹氏 株式会社ケン・コーポレーション 外国部部長代理
西秀樹氏   株式会社ケン・コーポレーション 国内部第2営業部部長代理
渡邊翼氏   株式会社ケン・コーポレーション 企画部課長

好況が続いた2024年、
麻布台ヒルズに未知の高額坪単価が登場

麻布台ヒルズ

麻布台ヒルズ

「2024年の高級賃貸市場のもっとも大きなニュースとして挙げられるのはなんといっても麻布台ヒルズでしょう。竣工は2023年9月ですが、実際のリーシングは2024年。それ以前の最高峰物件といえば、例えば、東京ミッドタウン内『ザ・パーク・レジデンシィズ・アット・ザ・リッツ・カールトン東京』などがありましたが、そういった物件の坪単価(約4万円前後)を越え、一部には5万円台後半という部屋も登場しました。都心部の高級賃貸賃料はさらなる高みに到達したといえます。」
(株式会社ケン・コーポレーション 国内部第2営業部部長代理 西 秀樹)

国内部第2営業部部長代理・西秀樹

国内部第2営業部部長代理・西秀樹

「賃料額もこれまでの最高価格帯に踏み込んでくる物件が増えました。代表的な物件のペントハウス、一戸建てなど1棟に1戸しかないような希少な存在だったものが、厚みが出てきたことを考えると、2024年の変化は大きかったと言えます。」
(ケン不動産投資顧問株式会社 課長代理 阿瀬 真由香)

「10年前には坪単価2万円をどう超すかという話をしていましたし、数年前は3万円を超すことができるかという論点でした。虎ノ門ヒルズ、同レジデンシャルタワーが出て少しずつ3万円、4万円という壁を越えてきましたが、今回はそれを軽々と越えました。賃料600万円は分譲物件で考えると20億円台後半、700万円なら30億円台に相当すると考えられ、これまでの日本の賃貸市場にはほぼない存在です。」
(株式会社ケン・コーポレーション 企画部課長 渡邊 翼)

企画部課長・渡邊翼

企画部課長・渡邊翼

「森ビルの大規模開発は周辺への影響が非常に大きいのが特徴です。一般的な住宅を中心にした開発では影響がごく周辺部に留まるのに対し、森ビルの開発はひとつの街を作るもの。住宅だけの開発では恩恵が及ぶのは主に住まい手ですが、麻布台ヒルズなどのようにホテル、商業施設などがあり、周辺にとっても利便性、快適性の向上に繋がるものは周辺の価値をも押し上げます。麻布台ヒルズの誕生で周辺物件の賃料も上がりました。」(西)

「周辺への波及効果、マーケットを変革したという意味では麻布台ヒルズは20年に一度の物件。先行した虎ノ門ヒルズも話題になりましたが、虎ノ門ヒルズは段階的な開発でした。それに対して麻布台ヒルズは一気に開業。複合開発のメリットが生き、そこに大きな違いがあります。」(渡邊)

「もうひとつ、麻布台ヒルズで大きいのはブリティッシュスクールの存在です。これによって英国籍の方々が渋谷、松濤その他広いエリアから麻布台に移動しました。教育機関の入った都心部の大規模開発は六本木ヒルズ以来です。
しかも、麻布台ヒルズのある土地の賃貸住宅の以前の賃料坪単価は1万3000円ほど。地形的に不利な場所でしたから、その意味でも都心部の価値をぐっと押し上げたことになります。」
(株式会社ケン・コーポレーション 外国部部長代理 佐々木 重樹)

外国部部長代理・佐々木重樹

外国部部長代理・佐々木重樹

「更にもうひとつ加えると、麻布台ヒルズ誕生で起こったことが高級賃貸の玉突き現象です。六本木ヒルズ、東京ミッドタウン以降、富裕層にとってあまり食指の動く物件が無かったところに麻布台ヒルズレジデンスA棟が登場。200万円以上のトップクラスの住戸に居住されていた方々がこぞって移動。そのため、これまでほとんど空きの出ることが無かった部屋が空き、そこに新しい居住者が入りました。」(渡邊)

「供給には2種類あって、供給過多となってマーケットを冷やしてしまう悪い供給もありますが、麻布台ヒルズは住み替えのきっかけとなり流動性を向上させる良い供給となりました。この度の動きにより募集となったトップクラスの部屋の賃料はこれまで以上の額になりましたが、その時々の生活に合わせたより良い居住環境を追求する企業経営者などの方々が空室を埋めています。」(阿瀬)

「さて、その麻布台ヒルズですが、現状、A棟についてはほぼ初期の募集は終わっており、出るとしても数部屋。次は2025年後半に完成、市場に出てくるのは2026年春以降になるであろうB棟です。
こちらは地権者の方の入居も多く、地下ではタワープラザなどの中心部と繋がってはいるものの、地上では道を挟んだ場所になり、A棟よりは小ぶりな部屋が多いと聞いています。また、ジャヌ東京のホテルサービスも無いものと想定されます。どのようなグレードの部屋が出てくるかはこれからです。」(渡邊)

タワーと低層でニーズの二極化、
セカンド利用が再度顕在化

「マーケット全体でもここ1年ほどで賃料は大きく上昇しています。立地や仕様に優れたグレードが高い物件の坪単価は2万5000円くらいから3万円くらいに上がった印象です。コロナ禍で入国制限により成約件数が減少した外国人向けの大型住戸も回復していますし、日本人でも150万円以上出せる方が順調に増えています。」(阿瀬)

ケン不動産投資顧問㈱課長代理・阿瀬真由香

ケン不動産投資顧問㈱課長代理・阿瀬真由香

「話題になりやすいのはタワーマンションですが、プライバシーを重視、静けさを優先する方々には低層で閑静な立地で一戸建ても含めた、余裕のあるサイズの住宅が2023年、2024年と見直される傾向にあります。
タワーマンションのコンシェルジュ+共用施設をよしとするか、既存の高級住宅街立地の静謐さ、プライベート感を好むか、そのあたりは意見が分かれるところでしょう。」(渡邊)

「タワーマンションでは様々な間取りを取り揃えており、それをセカンドハウス的な使い方をするために借りる人が増えました。本宅ともう1部屋というだけでなく、2部屋借りている方などもいらっしゃいます。」(阿瀬)

「景気が悪くなるとセカンドハウス利用はすぐ解約が入ります。コロナ時にはほとんど無くなっていたセカンド利用が復活しているというわけです。」(西)

「セカンドハウスを借りるその他の需要としては、地方の経営者等が都心で賃貸住宅を借りるケースもあります。背景の1つにはホテルの宿泊料金の高騰があります。特に東京では料金が急上昇しているだけでなく、そもそも数が足りないのか、なかなか取れない。それなら賃貸住宅を借りたほうが良いのではと考える企業経営者も少なくありません。災害対応で複数に拠点を構えておこうという考え方もあり、2023年以降、そうした動きを感じています。こうした動きもまた、賃料を押し上げる要因になっています。」(佐々木)

「高級賃貸を作り続けて大丈夫か、消費者は家賃上昇についてこれているのかということを聞かれることがありますが、現状ではついてきていると言っても良い状況。最近ではリーマンショック後の空室率が12%でしたが、それ以降空室率は下がり続けており、賃料は上がり続けています。」(渡邊)

2025年以降の大型新築物件は減少傾向、
高輪、品川などへのエリア拡大の兆しも

「2025年はあまり大きな新築物件がない状態です。総戸数が1002戸で939戸が完売したと言われる三田ガーデンヒルズがありますが、これは分譲物件。通常、分譲物件のうちの2~3割が賃貸に出ることが多いのですが、同物件は敷地内に5棟の居住棟があり、最上位グレードの棟についてはそれほど賃貸に出てこない可能性もあります。」(阿瀬)

「以前でしたら、大規模な分譲マンションのうち、100戸が賃貸市場に出るだけでインパクトがありましたが、今はマーケットのパイが拡大。100戸ほどではそれほど大勢には影響を与えなくなっています。
規模でいえば晴海フラッグも動向をよく聞かれますが、こちらは総戸数で約5600戸。賃貸に出されている住戸も数が多いので、なかなか稼働が安定しません。今後、交通の利便性が高まって行けば状況は変わるかもしれません。

HARUMI FLAG(晴海フラッグ)

HARUMI FLAG(晴海フラッグ)

26年春にはTAKANAWA GATEWAY CITYのレジデンス、TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCEも出てきます。800戸超の規模で、ここには東京インターナショナルスクールが移転する予定があり、それ以外には商業施設もあり、こちらも街という規模です。
ただ、従来認識されてきた高級賃貸が立地する都心部からは少し離れており、ここの学校に子弟を通わせようとした場合、引っ越すまではせず、子どもがバスで通学することを選択するケースが中心になるであろうことが想定されます。都心部で教育レベルが高いとなれば、そこに引っ越す家庭もあるでしょうが、それ以外のところでそこまでの動きに繋がるかは未知数です。」(渡邊)

「逆に、都心部から多少離れていることからファミリー向けの3LDKなどが100万円以下の、比較的借りやすい賃料で出てくることも予想され、その意味では動く方も多いのではないでしょうか。」(佐々木)

「戸数でいえば品川駅港南口に誕生するロイヤルパークス品川も500戸近い規模があります。これまで坪単価で2万円を超す物件がない地域でしたが、同物件は2万円以上。広い住戸では3万円を超す例もあり、それで決まっていくようであれば品川、芝浦の評価が大きく変わることになります。」(西)

日本橋に新たな高級賃貸エリア?
注目したい、ホテルとの連携

「戸数は多くはありませんが、ひとつ、注目しても良いのではないかと思うのが日本橋のコレド日本橋の隣で開発が進んでいる日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業で誕生するはずの住宅です。というのはここのC街区、40~47階にはヒルトンの最上級ラグジュアリーブランド、ウォルドーフ・アストリア東京日本橋が入る予定。その上階、48~51階に住宅が入ります。完成は2026年春の予定ですが、これがレベル次第で日本人富裕層を動かすのではないかと思われます。」(渡邊)

「日本橋はハイグレードな物件のストックがまだまだ少ないエリアですが、三越前駅・新日本橋駅に直結しCOREDO室町2の高層階に位置するパークアクシスプレミア日本橋室町は、入居者が動かない人気の物件です。日本橋自体が歴史のある独自の文化のある街ですから、ここに住めるなら引っ越したいという方もいらっしゃるのではないかと思われます。」(佐々木)

「これまでもリッツ・カールトン、アマンなどといったラグジュアリーなホテルとの連携がよりハイグレードな暮らしを実現してきたことを考えると、それがさらに賃料を押し上げていくことも考えられます。
もともと日本橋はオフィスエリアとしても伝統があり、小規模ながら歴史のある企業が集まっています。そうした企業のトップは高級賃貸を借りる層でもあり、それを考えると日本橋界隈にハイグレード物件の供給が増えることは歓迎されるのではないでしょうか。」(渡邊)

パークアクシスプレミア日本橋室町

パークアクシスプレミア日本橋室町

「これまで日本橋も含め、東京駅周辺にオフィスが集積していたのは今まではオフィスのほうが坪単価は高かったためです。ですが、もし、坪単価で7~8万円が設定できるならオフィスではなく、住宅にしようという動きが起こるかもしれません。」(西)

「その境界となるのが坪単価4万円ではないかと考えています。4万円を超すとオフィスの賃料を超してきます。ニューヨークなど世界の主要都市ではオフィスを住宅にコンバージョンする例がありますが、日本でもそういったことが増えてくるかもしれません。もし、丸の内にレジデンスがあったら人気が出そうです。」(渡邊)

住宅のクオリティは大きく向上
今後、出てくるとしたらバトラーサービスか

「外国人向けに特化した物件は20年前くらいが最後でしょうか。以降、特にリーマンショック後は高級賃貸でも日本人富裕層のニーズに対応した物件が中心になっています。日本人富裕層が重視する点を取り入れて、高級賃貸住宅は進化してきました。」(渡邊)

「洗面所のダブルシンク、ファミリー向け物件ではバスルーム2カ所は当たり前になり、天井もぐんと高くなりました。ただ、残念なのは子ども部屋だけがまだまだ狭い印象があります。ここのレベルがもう少し上がってくれば日本の住宅も海外並みのクオリティと言えるのではないでしょうか。」(佐々木)

「サービスレベルその他もあがりました。ある程度の規模ならコンシェルジュがいるのは当たり前。分譲物件でも24時間コンシェルジュサービスを見かけるようになりました。」(渡邊)

「今後出てくるとしたらコンシェルジュよりも1歩進んだサービスといえるバトラーサービスでしょうか。家庭内のあらゆる手配をお任せできるサービスで、荷物を運んでくれたり、ゴミを捨てたり、店の手配をしたりといったことがお願いできる、個人宅のコンシェルジュ的存在です。」(佐々木)

「ヴァレーサービスもそうですが、高級ホテルでやっているようなサービスが賃貸住宅にも入ってくるのではないかと思っています。といっても、どこでもできるわけではなく、そうしたサービスができるホテルは限定されます。その意味ではラグジュアリーなホテルとの連携がある住まいには注目したいところです。」(渡邊)

物件不足、売り手市場下では
住まい探し、不動産投資には戦略、熟慮が必要

「ただ、この春以降に住まいを探す人にとっては楽観視ができない状況です。たとえば、外国人向けの物件では数が足りなくなる可能性があります。コロナ禍が開けて外国エキスパッツが再入国したのは2022年からですが、任期は3年という例が多く、2025年は異動の時期にあたります。
ところがそうした方々が求める60坪ほどの3LDK、4LDKという物件は増えていません。現在いる方々が同数で入れ替わるなら良いでしょうが、もし、それ以上に来日する人が増えたら住宅が足りません。エリアを広げて考えるとしても、広げたところで物件がなければ意味はありません。日本人で住まいを探す人もそのあおりで探しにくくなる可能性があります。この3年で家賃は大きくアップしていますが、外資系企業の日本法人の多くではそれに合わせた予算設定ができていないこともあります。探しているのは150万円クラスの物件であるにも関わらず、予算は100万円ほどで折り合わないという話などを聞くようになりました。」(佐々木)

「建築費高騰が言われています。麻布台ヒルズも今造るとしたら倍にはなるでしょう。これから新しくプロジェクトを検討しても坪単価2万円では採算に乗りません。坪単価3万円以上でと思ってもその賃料が設定できる場所は限られてきます。限られてくる上に都心部では用地自体も少なくなっています。このような状況下では、大規模な開発でないと成立しにくくもなります。ただ、そうしたものは計画から数年以上はかかります。以上のようなことから今後4~5年は供給が細ってくることが考えられます。」(渡邊)

「新築が建てにくい状況を受け、リノベーションの相談が増えています。2000年前後に建った物件がそろそろ古くなっており、外壁その他だけではなく、設備、給排水などの交換も必要になってきているという背景もあります。
ただ、そうした物件で大規模なものは少なく、戸数も限定的。リノベーションを行ったとしても細った新築供給を埋めるほどの数にはならないでしょう。」(阿瀬)

「住み替えたくとも希望する物件に空きがない、予算が折り合わないその他さまざまな要因から長く住み続ける方が増えています。定期借家で住んでいる方は期間が終了してしまうので仕方ありませんが、普通借家で借りている人は戦略なく動くことは避けたほうが賢明かもしれません。しばらくは物件が足りない売り手市場が続きます。希望に合致する部屋を探すのは難しくなると考えるのが妥当かもしれません。同様に不動産への投資も軽々にはできにくくなってきています。市場、物件、資金計画その他いろいろなものを勘案して熟慮することが必要な時代になりました。」(渡邊)

「そうですね、全体的に2025年も、需要>供給の状況は続くと思われますね。ですが、そういった状況を踏まえ、そんな時だからこそ、是非、高級不動産のプロであるケン・コーポレーションの営業を頼って頂きたいと思っています。」(西)

「また、競争の激しいマーケットの中でも、KENのみ取り扱う事のできる専任物件が多くございますので、当社にお任せくださいませ。」(佐々木)

プロ4人に市場を踏まえた2025年以降の予測を伺いました。質の高い住宅へのニーズ自体は活発なものの、内外の状況からすると供給数はしばらくいまひとつという状況が続くというのが4人に共通する見方でした。しかし、日本橋のようなポテンシャルのある地域の開発が進むなど変化の兆しも見え始めている様子。まだまだ変わる東京の住まいをこれからも楽しみにしたいところです。

【文・構成】中川 寛子 HIROKO NAKAGAWA

(株)東京情報堂代表。街選びのプロとして首都圏のほとんどの街を踏破した、住まいと街の解説者。早稲田大学教育学部で地理・歴史を学び、卒業後は東洋経済、ホームプレス、東京人その他の紙、ウェブ媒体で編集者、ライターとして記事、書籍等を手がけており、主な著書に「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)、「解決!空き家問題」「東京格差」(ちくま新書)その他著書、かかわった本多数。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。宅地建物取引士、行政書士有資格者。

掲載中の施設名・駅名・社員の所属などの情報は2025年1月現在のものです。